
同じアパートに、知的障碍のある大人のお嬢さんが居る。
引っ越してくる時お父さんに、
「障碍があるので、ご迷惑かけるかも知れません」
と言われたけれど、大抵の迷惑はこの、
健常なるお父さまが引き起こしていて(笑)、
お嬢さんは、おとなしい、可愛いらしいひとだ。
このお宅に、夜10時半という時間、警官2名がやってきた。
うちは玄関周辺の音が特に響くので、部屋に居ても
やりとりが丸聞こえ。
どうも、そのお嬢さんが、駅前のパン屋さんの商品を
勝手に食べちゃったらしいのだった。
確かに悪いことだが、そのことで夜10時半に?
彼女も他の家族も、夕方には家に居るのに。
パン屋さんは、全然、怒っている訳じゃないという。
ただ困っているのだ、と。プラス、警官からの要望。
「今後のため、見えるところに連絡先を書いて欲しい」
彼女はカバンの中に、連絡先のカードを持っている。
でも警官は「可哀想だから」、カバンを開けられないので、
見えるところに書いておくべき、なのだと言う。
一応窃盗をしたのだから、警官にもカバンの中身を
見る権利はあると思うし、そもそも「見せて」と言えば、
素直に彼女は中身を見せるだろう。
お巡りさんがお家へ連れて行って、と言えば、連れて来るだろう。
そういうのは、やったらいけない規則なのだろうか。
「可哀想でできない」という警官の乙女チックな純情の為に、
彼女や家族は、毎日連絡先を晒すリスクを負わねばならんのか。
私は、何か障碍があることで、罪を犯した時に罰を免れるべき、
とは思わない。でも、重罪じゃなく、その人に悪意もない時、
なにか他の対処ができるなら、その方法を試したい、と思う。
それってキレイゴトかもしれないけども、
そうしないのであれば、「怒ってない」とは言いたくない。
(少なくとも夜10時半に警察を動かす程度には、怒ってるはず)
可哀想だから云々、とも言いたくない。
私の地方だけなのか知らんが、商売に関する言い伝えというか、
迷信というか、こんな事を聞いたことがある。
知的障碍のあるひとは商売の神様だから
決して邪険に扱ってはならない
これはこれで、ある意味差別的かも知れないが、
かなり古い時代からの言い伝えなので、そんなもんだ。
商売をする立場に立てば、商品を勝手に食べたり、
ぺたぺた触られたら、困るし、腹も立つ。
でもよく考えてみると、商売って、障碍のあるなしに関わらず、
扱いにくい、嫌な客も来る。
そういう客をうまく扱えば、逆に一番いいお客さんに
なってくれるんじゃないだろうか。
障碍があることで、いろんな店でよい扱いを受けない人が、
その店で親切な対応を受けたら、本人も家族もやっぱり嬉しい。
もし、店が困るようなことをしたのに、それでも
親切にしてもらえたら、どうだろう。
その方が、お店にとっても得になるんじゃないだろうか。
現実には、そうも行かないって、ことなのかなぁ・・・。
それが今の世の中、ってことなのかなぁ。
けど、それほどに余裕のない状態で売っているパンって、
なんだか幸せな気持ちで食べられないなぁ、と思うのは
私だけだろうか。
このパン屋は、最寄り駅の改札の真ん前にある。
改札から出ると、菓子パンのクリームの、甘い甘いにおいが、
たまらなく美味しそうに思えて、つい入りたくなる。
彼女もつい入って、つい、食べちゃったんだろうな・・・。
パン屋さんの立腹もわかるし、お嬢さんがつい食べちゃった
気持ちも、分かる。
せつない。
そしてこのパン屋のパン、まずいのだ。
・・・嗚呼、せつない。