「奴らはもう、片づけたんだろうな・・・?」
男はイライラしながら小男に尋ねた。
「それがその・・・ボンボリリーだけが・・・」
「どういうことだ!もう一月近く経ってんじゃねぇか!
一人娘のエイプリルが、お嫁に行き遅れちゃうだろうが!」
男は吸っていた煙草を小男に投げつけた。
「アニキ、す、すいやせん!血眼で探してるんですが・・・」
「あんなバカ娘だし、俺はこんな商売だけどもよぅ、
アイツにはカタギの幸せ、与えてやりてぇんだよ・・・」
男は遠い目をした。
「あの女が、うまく隠してやがるんです・・・」
「あの女め・・・!どういうつもりだ・・・!」
「・・・停電の時、使う気なんじゃねぇですか」
小男は、鼻で笑いながら言った。
「・・・はぁっ?今時あんなもん、電気式だろうが!
しかも白熱球じゃねえのか?どんだけ電気食うんだよ!
停電対象外区の奴がバカ抜かすんじゃねぇ!」
「す・・・すいやせん・・・」
気の利いたことを言ったつもりが藪蛇だった。
「だいたいなんで奴を見つけるのに一月も掛かるんだ!
女が隠してやがろうと、テメェが探せば済むことだ!」
「あれから、色んなことがいっぺんに起こって・・・
それでみんな、バタバタしちまって・・・」
小男はうなだれた。
男はもう一本煙草を取り出すと、火を付けた。
「・・・そうだな、色んなことがいっぺんに起こりすぎたな・・・」
紫煙を長く吐きながら、男はしみじみと言った。
が、吐ききると調子が変わった。
「・・・ん?待てよ?確かに色々あったけどよ、
お前んとこは、そんな大した被害なかったろうが」
小男は、ポリポリ頭をかきながら言い訳した。
「いやね、女房が慌てちまいましてね、
納豆だぁ紙だぁ何だぁって、あれこれ全部
手に入るだけ買って来いってうるさくて・・・」
男は鋭く小男を睨み付けた。
「買い占めてやがったのは、お前か!俺は未だに
納豆食えてねぇし、トイレットペーパーなんて危うく
なしで過ごすとこだったんだぞ!」
男は小男の襟首をつかみ、揺すった。
小男の体は簡単に持ち上がった。
小男は必死に男の気に入るようなことを言おうとした。
「・・・今年の花見や旅行は、自粛しやすから・・・」
だが小男の言葉は、男の怒りを更に激しくした。
「テメェはな、どっかズレてんだよ!
テメェんちの花見や旅行自粛して、誰か助かんのか!
俺らが経済回して、元気出さねぇでどうすんだ!
するなら買い占めや風評差別を自粛しろってんだ!
誰の助けにもならねぇ自粛なんざ、自己満足だろうが!」
小男は小さな体をもっと小さく縮めた。
それを見て、男は少し哀れに思い、静かに手を離した。
「・・・まぁ、慌てちまう気持ちは、分からなくもねぇ。
俺だってビビっちまったんだ。みんなそうだよな・・・」
男は煙を肺いっぱいに吸い込んで、一気に掃き出した。
「しかし、あれだ・・・ほんとはよぅ、いろいろ起こったこと、
全部今日並べて、嘘だったぜ、って言えりゃぁいいのになぁ・・・
だって今日は・・・。・・・いや、何でもねぇ・・・」
男は小男に背を向け、天を仰いで細い煙を吐いた。
その背中は、寂しかった。
祈っているようにも、泣いているようにも見えた。
「・・・アニキ!きっと、嘘だったんじゃねぇかと思うくらい、
みんな元気になる日が来ますぜ!絶対に・・・来ますぜ!」
小男は、たまらない気持ちになって、そう言った。
「そんな日になったらよぅ、そんな日になったらよぅ、
みんなで笑いてぇな・・・。世界中をふるわせてな・・・」
男は小男に背を向けたまま、そう言い、去っていった。
「アニキー!奴は、必ず見つけやすから・・・!」
小男の涙混じりの声が、辺りに響いた。






