場内が暗くなり、教会の鐘みたいのが
リーンゴーン、と鳴り響き、黒いケープのサラ、登場〜!
これ、知らなかったが、映画『Repo!』のサラの役、
ブラインド・マグの扮装らしい。
ケープを脱ぐと、中はあの、深紅のシンフォニードレス!
サラ、応援の旗みたいに、力一杯ドレスの裾を
振りながら、歌いまくる。
天井を突き抜けそうな高い声に、
激しく揺れるドレスが、炎のように見える。
どの曲も、本当に素晴らしかったが、
私がこの日一番好きだったのは、「La luna」。
CDをいくつか持っていたので、当然この曲は
知っていたのに、それほど好きじゃなくて、
オペラな曲だなぁ、程度の感想だった。
(実際ドヴォルザークの歌劇中のアリアである)
でもこの日、この曲を聴いて、その感想は一変した。
サラが歌っている「ここ」というのが、別世界に
変わってしまい、武道館という建物の壁も、
日本という国も、地球さえも通り越して、
サラだけがそこにいて、この世ならぬものを、
見せ、聴かせてくれている・・・
大好きな映画『ショーシャンクの空に』の中で、
刑務所内に『フィガロの結婚』が流れて、
全員が呆然となってしまうシーンがあるが、
あの気持ちが、この時はっきり分かった気がした。
私は今、この世で一番美しいものを見ている
そう思わせるなにかが、そこに確かにあった。
この曲は、月の光の優しさと儚さを
歌ったものだけれど、サラの歌もサラ自身も、
私が咳払いひとつでもしようものなら、
消えてしまう、魔法のような、不思議で厳かで、
限りなく美しい時だった。
隣のカップルの、若干柄の悪い男性は、
「俺、なんか、泣けちまった・・・」
と、鼻をぐずぐず言わせていた。
なぜCDの時は、同じ思いを味わえなかったのだろう。
サラの声の特に高音域は、ハンドマイクでしか拾えない
(ヘッドホン型のマイクではだめ)と聞いたことがある。
CDには記録出来ない微妙な音や、うちのコンポじゃ
再現できない音があったのだろうか。
それとも、生という臨場感だけの違いだろうか。
よくは分からないが、この日、この曲を生で
聴くことが出来て、本当によかったと思う。
この1曲だけでも、チケット代の価値はあったと
言えるくらい、素晴らしかった。
この曲のサラと、舞台裏を見せてもらって、
人間の能力は無限なんじゃないか、とも思った。
サラは、決して自分の天分に甘えていない。
自分の特別な才能を、もっともっと伸ばし、
維持する努力を怠っていない。
観客に楽しんでもらいたい、という思いを、
これ以上ないくらい精一杯に形にしている。
私も、自分の出来ることを精一杯やろう、と、
なんだか分からないが、厳かな気持ちで誓った。